天文古玩・再考(4)…微妙な望遠鏡を調べる

地震の翌日を1日目と数えると、今日で44日目、そして今月の末でちょうど50日目を迎えることになります。

今日の朝日新聞に、また星を見よう―原発から33キロの天文台で/福島・田村 天体望遠鏡壊れ休館中/修理に7000万円 支援呼びかけ」という記事が載っていました。

それによると、田村市の市営「星の村天文台」(大野裕明台長)では、65センチ反射望遠鏡が地震で大破。修理には約1年、費用は7千万円かかる。田村市では多くの市民が今も避難生活を送っており、避難者支援や風評被害対策が最優先課題。望遠鏡の修理までは手が回らないのが現状だそうです。

「星を見て腹がふくれるか!」という声も当然あるでしょう。
一方、「腹をふくらますために星を見てるわけじゃないよ」と思う人もいるでしょう。
まあ、そんなことでいがみ合わずに、みんなで静かに星を見上げられる世の中が、早く訪れるといいな…と思います。

   ★

さて、昨日の続き。

本機は口径75ミリ(3インチ)。

鏡筒長は接眼チューブを外した状態で90センチあります。
昨日の写真だと後の本棚が小ぶりに見えますが、この本棚は120cmの幅があるので、ここではむしろ望遠鏡の大きさに注目して下さい。現代の「卓上式望遠鏡」のイメージとは、サイズの点でいささか異なります。

昨日とは反対側から見たところ。やっぱり大きいですね。
合焦ノブを回すと、全体の長さはさらに伸びます。

これがメーカー名。
中央の穴にはネジが切ってあって、ここに接眼チューブをねじ込みます。

Negretti & Zambra 社は1850年にロンドンで創業した科学機器メーカーの老舗。
メーカー名の脇に刻印された「1823」は製造年ではなくて、製品番号を示すものでしょう。

異国風の社名は、創業者のヘンリー・ネグレッティ(1817-1879)がイタリア系であることに由来します。ファーストネームも、最初はイタリア式にエンリコと名乗っていました。相棒のジョセフ・ザンブラ(1822-1897)もスペイン風の姓ですが、こちらはその父親の代からロンドンで気圧計を商っていた家柄のようです。

2人が共同で会社を興してからも、最初は温度計や気圧計が主力商品でしたが、19世紀の末に代替わりしてから、光学機器の分野にも進出。しかし、1918年の第1次大戦の終結と共に、光学機器の製造から撤退し、産業・航空分野の機器製造に力を注ぐようになった…というようなことが、同社の『百年史』↓には書かれています。
http://www.freunde-alter-wetterinstrumente.de/files_pdf/negretti_cent.pdf

同社が光学機器を作っていた時期はわりと短く、光学メーカーとしてはせいぜい二流どころといった扱いでしょうが、今でもその製品はわりと目にします。一時はかなり大量に作っていたんじゃないでしょうか。

特徴的な架台と三脚。
鋳鉄製のインダストリアルなデザインは、同社が機械モノに強かったことの表れでしょうか。19世紀を脱して、20世紀を感じさせる表情です。(上記の事実から、この望遠鏡は20世紀の第1四半期に属するものだと思います)

   ★

書いているうちに、この望遠鏡も、そう悪くないように思えてきました。

実を言うと、この望遠鏡、まだ1度も覗いたことがありません。
古い星図や月面図を開いて、じっと100年前の望遠鏡を覗いたら、見え味はどうであれ、「郷愁の天文趣味」だけは十分味わえそうです。